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北の国旅日記

北の国旅日記

うー太とかーちゃん



 うーはね、生まれて少ししたら本当のかーちゃんのところから、弟と二人でペットショップに行かされたんだよ。たくさん生まれちゃったから、みんないっしょに居られなかったんだって。まだちっちゃかったから、同じお部屋で弟と体をくっつけあって、かーちゃんにくっついてるみたいにあったかくしていたの。寒いと寂しいから、たった二人で、ぺろぺろお耳とか体とかなめあって、がんばろうね、元気だそうねってくっついていたんだ。ペットショップはせまいけど、まあまあだったかな。ご飯も食べられるし、お水も飲めるし。でも、ぼくたちだんだん大きくなっちゃって、二人で同じお部屋に居られなくなっちゃった。ぼくも弟も、せまいところにいっしょに居たら、すぐケンカしちゃうの。ぼくの方が強いよとか、ご飯食べちゃったのおまえだろとか、つまんないことでかじりあいとかしちゃって。ペットショップのお姉さんに怒られて、二人別々になっちゃった。寂しかったけど、お部屋はとなりどうしだったから、さくの間から、よくとなりを見ていたよ。ぼくたち、新しいかーちゃんかとーちゃんに買ってもらえないと、おっきくなってもずっとせまいお部屋で、たいくつにくらさなくちゃいけなかったの。もっとおっきくなっても誰にも買ってもらえなかったらどうなるのかなーって、時々ぼーっと考えてたよ。ある日、ぼくはちっちゃい男の子に買ってもらったの。ちっちゃい男の子とそのお父さんとお母さんが、ぼくを連れて行ってくれたの。よかった、これでぼくは幸せになれるんだって思った。でもね、初めておうちに行って、初めてペットショップじゃないところでぴょんぴょんしたら、すっごくこわくって、男の子が大きい声を出して、うーの体にさわったとき、びっくりしてかみかみしちゃったの。びっくりしただけなんだよ。こわくてびっくりしただけなの。でも、そしたら、その日のうちにうーはペットショップに返されちゃったの。返って来たとき、弟が「ばーか」って言ってるのが見えて、すごく頭にきたんだ。いっしょのお部屋だったらぜったいかんでやったのに。うーと弟は、同じ色で同じ顔だったから、二人いっしょに買ってくれる人は居なかったし、見に来る人はどっちを買おうかってまよって買ってくれなくて・・・けっきょく売れ残りになっちゃったの。二人して、おまえのせいだって、むかむかしてさくの間からにらんだりして。でも弟がさきに売れちゃったら、きっとぼく寂しかっただろうな。

 ペットショップのおねえさんは、ぼくが返品うさぎだって気にしてた。かみかみしたから返された、悪いうさぎなんだって。抱っこもキライでわがままのうさぎだからって、返ってからまえみたいにやさしくしてくれなくなったの。ぼく、かなしかった。人間なんって大きらい。ぼくはこわくてびっくりしただけなのに、人間はぼくのこと何にも考えてくれない。かわいかったらいいけど、かわいくなかったらいらないんだ。ただそれだけ。うさぎだって人間だって、せいかくだってこのみだってそれぞれあるのに、ぼくはこわがりのうさぎで、ちょっとあばれちゃうだけなの。びっくりしちゃうだけなんだもん。ある日、なんだか見たことある人がぼくのこと見てたの。誰だっけ?見たことある人。ぼくは誰だっけなあって、立ち上がってその人のこと見つめたの。いつ会ったんだろう、見たことあるなあって。そしたらね、その人、ペットショップのおねえさんに「あのうさぎは買えますか?」って聞いてくれたの。おねえさんは、「あの子はちょっと。抱っこもきらいだし、かむかもしれませんよ。弟の方が同じ顔で、おだやかだし抱っこもできますよ」って。ぼくはもうダメだって思った。ぼくは悪いうさぎだからもう誰にも買ってもらえないんだって。そしたらその人、「いいんです。ほら立ち上がってこっちを見てるでしょう。運命、感じちゃった。すっごくかわいい」って。その人は、ぼくのそばに来て、「うさぎのうーちゃん、うちの子になる? 売れ残りどうし仲良くしようね」って言ったの。本当にいいの?ぼくのことつれて帰ってくれるの?返品したりしない?ぼくのかーちゃんになってくれるの?って、ぼくは立ち上がってその人に目で聞いたの。そしたら、「いいよ、うちの子になって、二人でくらそうね」って答えてくれた。ぼくはそんな風に、今のかーちゃんに会って、家族になったんだ。かーちゃんとぼく、ふたりの家族だよ。

 かーちゃんは一人暮らしの女の人で、売れ残りっていわれているらしい。同じアパートにおばあちゃんとおじいちゃんが居て、時々、そこに行っている。ぼくを買ってくれるって言ったけど、お迎えに来てくれるまで、初めて会ってから1週間くらいかかったんだ。なんでも、ぼくのお部屋を買ったり、ご飯やお菓子を買ったり、トイレを買ったりしていたんだって。「わたし、うさぎを飼うのが初めてなんです。猫や犬は飼ったことがあるんですけれど、何がひつようなんですか?」ってペットショップのお姉さんに聞いていたっけ。かーちゃんのお部屋にぼくのお部屋を入れる場所を作って、おしっこしてもウンコしてもだいじょうぶにするのに、時間がかかったんだって言ってた。かーちゃんは車がないから、ぼくを迎えに来た時は自転車だったんだよ。ペットショップのおねえさんがぼくをちっちゃい箱に入れて、ぼくはきゅうくつな白い箱に入って、かーちゃんの自転車のうしろにくくりつけられて、少し長い時間、ゆらゆらゆられながらおうちに行ったの。かーちゃん、早くぼくをつれて帰りたくて、おばあちゃんに車をたのむのが待てなかったんだって。とちゅうで、「うーちゃんだいじょうぶ?こわくない?」って箱の中をのぞいてくれた。ぼくはこわかったけど、がまんしたの。新しいおうちに行くんだもん、やっぱりうれしかったんだ。おうちについて、ぼく、また「きゃー」とか「わー」とか言われて、体にさわったり牧草でつつかれたり、たたかれたりするのかと思った。そしたら、またかんじゃって、返品うさぎになるのかもって。でも、かーちゃん、ぼくを新しいお部屋に入れて、そのまんま何もいわなかった。時々そううっとのぞいて、「うーちゃん、だいじょうぶ?こわくない?」って聞いただけ。だから、その日は、すみっこで寝たり、トイレかじったり、すのこかじったり、牧草やご飯食べて過ごしたの。知らない場所で、トイレもすのこもなんっかしっくり来なくって、かじったり動かしたりしてたら、かーちゃん、ぼくがどうしたのかって心配したみたい。でも、次の日くらいにはなれちゃった。ぼくは、ぼくのお部屋の外が気になって、いろいろ見てみたかったの。だから、外に出してもらった時はすごくぴょんぴょんして、いろんなとこの匂いをかぎに行ったんだよ。かーちゃんは「あら、うーちゃん、どこに行ったの?すきまに入っちゃダメよ、電気のコードかじっちゃダメダメ」って言ったけど、おもしろくておもしろくて、外の世界はなんってふしぎなものがたくさんあるんだろうって、夢中であそんだんだ。かーちゃんはやさしいし、ぼくは子どものうさぎだから、あそびたくてあそびたくてたまらないし、なんっか今までの生活とぜんぶ変わっちゃったんだもの、ちょっと調子にのっちゃった。そしたら、かーちゃんは困ったみたい。かーちゃんのおうちに行って1週間くらいして、かーちゃんはぼくを抱っこして、まえに居たペットショップにつれて行ったの。ぼく、もしかしたら返品されるのかもって、すっごくきんちょうしたんだ。でも、ちがった。弟はまだペットショップに居て、売れ残ってた。ぼくは目があって「ばーか」って言ったの。弟はびっくりした顔してた。きっと一人ぼっちで残されて、寂しかったんだと思う。かーちゃんは、ぼくがあばれんぼうだから、弟もいっしょに飼った方がいいかなって思ったみたい。二人で居たら、少しおとなしくなるのかもって。でも、けっきょく弟はこなかった。しばらくしたら、どこかのおうちに買われたみたいって、かーちゃんが言ってた。ぼくも、もしうちに弟がきたら、きっと毎日ケンカして、かーちゃんはもっと心配したんじゃないかって思うんだ。ぼく、自分でも思うけど、甘えん坊でわがままなの。やきもち焼きでもあるよ。かーちゃんが、ぼく以外のうさぎをかわいがったら、すっごく頭にきて、弟でもかじっちゃうと思うし、弟とぼくとどっちが強いかって気になってすぐケンカしちゃう。そんなこんなで、ぼくは一人っ子で育てられることになったの。初めのうち、かーちゃんは毎日うちにいて、ぼくとあそんでばかりいた。毎日楽しかったんだ。それからしばらくして、「うーちゃんのご飯を買うのには、働かなくちゃいけないのよ」って言って、急に朝からどこかへ行って夕方にならないと帰ってこなくなった。お仕事が始まったの。朝、会社に行く時、ぼくがダンボールの台の上にあがると、お菓子を一個くれて、ドライフルーツもちょっとくれて、「かーちゃんは会社に行くから、うー太はお留守番するんだよ。いい子で居てね」って毎日言うの。だから、ぼくは、一人ぼっちで寂しいから、一日中お昼寝して、ご飯食べてお水飲んで、ぷりぷりウンコしてジャーっておしっこして、また寝て、かーちゃんが帰ってくるのを待つようになったの。かーちゃんは帰ってくると、お菓子を一個くれて、ドライフルーツもちょっとくれて、ご飯とお水を換えて、トイレも換えて、それからぼくとあそぶようになった。あそぶのはね、追いかけっことか、ひものひっぱりっこととか、お手手にじゃれるのとか、なでなで。あと、いっしょにテレビ見るの。ぼくが好きなのは、たくさんの人が出て、わーとかぱちぱちぱちって音のするテレビ。テレビの中で、いろんな色が動くんだよ。ぼくは何のテレビかはわかんないけど、いろんな色が動いたり、音がするのが好きなの。かーちゃんと並んで、寝転がったりしながらテレビ見るの楽しいよ。まったりするって言うんだって。いっしょに寝転がってると、かーちゃんはかならずなでなでしてくれるの。なでなで大好き。かーちゃんは、なでなでしてるとちゅうで寝ちゃったりするの。疲れてるんだって。あんまり寝てると頭にくるから、ぼくは足の服をきてないところを見つけてかむの。そしたら、かーちゃんはびっくりしてとびおきるんだよ。「うーちゃん、いたいでしょー」って言うけど、かーちゃんとぼく、いっしょに居る時間が少ないんだから、寝ちゃダメなの。いっぱいあそばないと寝させないんだ。

 ぼくがかーちゃんとくらし始めて、しばらくして、ぼくは急にエッチうさぎになるようになった。かーちゃんが「うーちゃん、エッチうさぎになってる」って言ったから、気が付いたの。なんか、むかむかして頭に来たり、むずむずして変な気分の時、かーちゃんの足をかんだり、かーちゃんが嫌がることしたくなるんだ。そーゆー時、かーちゃんはうー太がエッチうさぎになっているって言うの。やだやだって。あとね、かんもう、っていうのになるようになった。体の毛がすごくぬけるの。ハゲになるくらいぬけるんだよ。顔の毛がぬけると、かーちゃんが「うー太、ウータマンになってるよ」って教えてくれるの。うーはね、ウータマンになるとすっごく強くなるんだよ。公園に散歩に行くと、ウータマンの時はすっごく遠くまでぴょんぴょんできるの。お散歩はね、ぼくが少し大きくなった時、かーちゃんが急につれて行ってくれるようになったの。本当は毎日行きたいんだけど、かーちゃんが、忙しい時と雨の日と寒い日と雪の日は行かないんだって。どうしても行きたい時はベランダであそぶの。ベランダって、お外は見えないんだけど、空気がお外のところがお部屋にあるんだよ。雨も入ってきてぬれたりするの。お外見たくて、台の上に上がったら、かーちゃんが落っこちるからダメダメっておこられちゃった。お散歩はね、公園って言うところと畑って言うところに行くの。ぼくは畑の方が好き。おいしい野菜があるんだよ。寒い時は何もないんだけど、暑くなるとおいしい野菜がたくさんあるの。にんじんさんの葉っぱとか、ブロッコリさんの葉っぱとか、おいしいんだよ。好きな葉っぱ食べてぴょんぴょんするの楽しいから、一回だっそうしたの。ずっと畑であそびたくて、かーちゃんが「うーちゃん、うーちゃん」って呼ぶの聞こえたけど、帰らなかったの。そしたら、かーちゃん、まっ暗になってもずっとずっと「うー太、うー太。うーちゃん、帰ってきて」って呼んでたんだよ。ぼく、ずっと畑にいようって思ったんだけど、かーちゃんがかわいそうになって帰ることにしたの。葉っぱちゃんだけじゃなくてお菓子も食べたいしなあって思って。公園はたんぽぽさんとかクローバーさんがはえてるの。広くてふかふかして、たくさんぴょんぴょんできるところだよ。でも広いからこわいの。カラスちゃんがカアカア鳴いてたり、おっきい声の子どもとかボールであそんでるお兄ちゃんとか、知らない人がいるの。初めは、かーちゃんはぼくにひもをつけてひっぱったりして散歩に行ったんだけど、なれてきたら同じ公園ばっかり行くようになったから、いつもの公園の時だけはひもつけないであそんでもよくなったの。一回、ぼくがひもつけてぴょんぴょんした時、ひもが足にからんで草の上にころんでけがしそうになったからもあるんだよ。でもね、ひもがなくても、かーちゃんが帰るよって言ったら、キャリーって入れ物に入らなくちゃいけないの。イヤだって言ったら、かーちゃんはすっごくしつこく追っかけてきて、こわいんだよ。春も夏も秋も冬も、散歩に行ったんだよ。冬になると雪って言うちめたい白いのが公園にあるの。たくさんあそぶと寒くてブルブルしちゃうんだけど、ちょっとだけあそぶ時はおもしろいんだよ。白いのはなめるとおいしいの。寒いとこであそんでブルブルしたあとは、あったかいお部屋でかーちゃんがなでなでしてくれるの。おいしいお菓子もくれるよ。すっごく寒かったら、ストーブのとこかテレビ台の下に入るとあったかいの。コタツって言うのと湯たんぽって言うあったかいのもあるんだよ。初めて冬になった時、かーちゃんはコタツを入れてくれたんだけど、ずっと入ってるとすごく暑くなるの。電気、切りたいのに切れないから頭にきて、コードかじって切っちゃった。そしたら、かーちゃん「電気でびりびりして死んじゃったらどうするの」ってすごくおこって、コタツに電気入れてくれなくなったの。それでそのあとは湯たんぽっていうがきて、「寒かったら湯たんぽちゃんの上にのっかってるとあったかいからね」ってかーちゃんが言うから、すっごく寒い時はのるようになったんだ。寒いのは冬って言うので、春になったら葉っぱちゃんもたくさんはえて、寒くなくなるんだよ。

 ぼくとかーちゃんはずっといっしょで、なかよく楽しくくらしていくと思ってたんだ。でもね、ある日、かーちゃんが居なくなったの。りょこうって言うんだって。トランクっていう箱を持ってきて、中にいろんなの入れて、「うーちゃんごめんね」って、おじいちゃんちにつれて行かれて、そのまんま4日も居なかったの。ぼく、おこっちゃった。何してるの?かーちゃん。かーちゃんはうーのことだけ考えてなくちゃダメでしょ。かーちゃんはうーのことが大好きなんだし。うーだってかーちゃんが大好きなんだから、家族なんだから、いっしょに居なくちゃダメなのに。かーちゃんのばかばか。すっごくおこって、ふくれて、でもご飯いっぱい食べて待ってたら、しばらくしてかーちゃんが帰ってきたの。「うーちゃんにお土産の干しぶどうだよ」って、おっきいぶどうちゃん買ってきてくれたけど、ぼくは頭にきちゃって、しらんぷりして、別のお部屋ににげて出て行かなかったの。そしたら、かーちゃん寂しそうな顔して、「うーちゃん、ごめんね、ごめんね」って言ってたけど、ぼくがどんなに寂しかったかぜんぜんわかってないんだから。ぼくはしばらくおこって、ツンツンしてやったの。かーちゃんが呼んでも行かないとか、ご飯くれてもかーちゃんの前では食べないとか。でも、しばらくおこってたけど、めんどうになってゆるしちゃった。そのあとも、何回か居なくなって、そのたびにおばあちゃんちとかおじいちゃんちとか、ぼくはあずけられたの。かーちゃんのばかばか。でもね、ほとんどはいっしょに居たんだよ。だって、ぼくとかーちゃんはなかよし親子なんだもの。

 かーちゃんが本当に居なくなったのは、春だったよ。少しまえから、かーちゃんはおかしかったの。「うー太とかーちゃんはなかよし親子。はなればなれになっても、いつだってかーちゃんはうー太が大好きだし、うー太もかーちゃんが大好きでしょう。だから、こころはいつもいっしょなんだよ」って、何回も何回も言うの。そんなのあたりまえだけど、しつこく言うから気になっちゃうのにって。会社に行かないで、ぼくのことずっとなでなでしてたり、トランク出して何か入れたり、ちがう箱にいろいろ入れたり、またりょこうかよって、少しおこってたの。でも、かーちゃんがすごく寂しそうで、何回もなでなでして同じこというから、いつもとちがうなって思ってた。ぼくはちっちゃいうさぎだから、何もできないし、かーちゃんが居なくなったらって思ったらかなしくてかなしくて、ウンコでなくなっちゃった。そしたらかーちゃん、おなかマッサージして泣いたりするんだよ。変なの変なのって。そしたら、ある日、おばあちゃんちにつれて行かれて、「うー太の大好きな葉っぱちゃんはおばあちゃんが作ってるから、たくさんもらって食べるんだよ。いい子でがんばってね。かーちゃんもがんばるから。うー太とかーちゃんはなかよし親子。はなればなれでもこころはひとつだよ」って、トランク持って居なくなっちゃった。おばあちゃんは「かーちゃんはマレーシアに行ったんだよ。帰ってくるまでおばあちゃんとお留守番しようね」って言って、それから毎日、おばあちゃんがぼくに葉っぱを取ってきてくれるの。この夏はすっごく暑くて、葉っぱちゃんいっぱい食べたけど、暑いときゅうりっていうのがおいしいってわかって、暑い時は毎日きゅうり食べて過ごしたよ。しゃりしゃりして、水分がいっぱいでおいしいの。にんじんちゃんもパセリちゃんも、ブロッコリちゃんもおいしいよ。でも寂しい。おばあちゃんはやさしいし、毎日おうちに居るから、かーちゃんといっしょの時よりお留守番も少ないし、寂しくないけど、ぼくって捨てられたんだって思うと寂しい。時々、かーちゃんから電話っていうのがくるみたい。リーんりーんって鳴ると、おばあちゃんが出て、何か話してるの。電話のところから「うーちゃん、おかーちゃんだよ、元気にしてるの」って声が聞こえた時があるけど、帰ってきたんじゃなくて声だけがするの。もしかしたら帰ってきたのかもって、車庫までさがしに行ったけど、居なかった。もしも、帰ってきたらどうしようかな。おこってしらんぷりしちゃおうかな。あんまり長く居ないと、本当に忘れちゃうかも。だってもう、ぼくのこと産んでくれた本当のかーちゃんのことおぼえてないもん。おばあちゃんが新しいかーちゃんで、ぼくはおばあちゃんちの子になったのかも。でもね、かーちゃんははなれていてもこころはひとつって言ってたんだ。だから、待ってるの。かーちゃんが「うーちゃん、ごめんねごめんね」って言って帰ってくること。いつなんだろ。明日かなあ、明後日かなあ、すっごくとおい話なのかな。かーちゃんとテレビ見ながらなでなでしてほしい。あのパチパチって音のする、たくさんの色が動くテレビ見ながら、ならんで寝転んでなでなでしてもらうの。まったりして、ゆったりして、すごく幸せだったんだ。


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